一

 ぬかるんだ地面の泥が跳ね返る。黒い制服のズボンの裾が少しずつ汚れていく。

 私は其れを気にするでもなく、山の一角を削り取ってつくられた、沢山の石が並べられた場所へと赴いている。曇り空の中、私は傘を閉じた。すでに雨脚は細くなっていた。

 人一人居ない静けさが、無機質に並ぶ墓石を悠然と引き立てていた。亡き者のみの世界が、そこには形成されている。自分は部外者であると言う認識をいやがおうにも持たされてしまう気がして、変に孤独であった。ここに来るたび、私は毎年のようにそう感じる。

 私は規則正しく整列している墓石を掻き分けるようにして進んだ。せいているわけではないが、何かに背中を押されているように感じて、私の足の間は自然と狭くなった。

 やがて何処までも広がる墓石の中、私はいつもの場所で足を止めた。その前で私は、静かにかがんだ。ポケットから古ぼけた紙切れを取り出し、そこに書かれた名前と同じものを目の前の墓石から見つけ出すと、私が感じていた孤独感は嘘のように消えていた。

 私はたたんだ傘を脇に置くと、手に抱えていた花を、その墓前に静かに手向けた。ある一人の女性に向ける私の、一年に一度の心遣いである。

 私は線香を上げて手を合わせた。

 私が初めて、この自分の身内が埋められているわけでもない墓へと赴いたのは、思えば三年も前の、年頃で言えば私の中学生活の中頃であった。それからここに線香を上げ、一人の人のために手を合わせるのは、私の中で毎年の恒例行事となっていた。ここに埋葬されている、私にこの端が黄ばんだ紙切れを渡した、あるひとりの女性への、せめてもの私の想いである。

 しかし私は、彼女が幼い頃の、そう、ちょうど三年前の私と同じくらいの年頃の様子しか知りえない。だが、時間的に私とその年代の彼女とが、同じ時間を共有する事はできないはずである。兎に角、私はその三年前、大きな体験をしたという事になる。

 私は一通りの仕事を終え、立ち上がった。途中、傘を拾い忘れている事に気づいて腰をかがめた。