九

 

 どうやらあの子供は私を疑っているようだ。

 吉田菊雄は一人、そんな事を考えていた。

 仕事があるといって早く帰ってしまおう。

 しかし、駐車場に向かっていた足をふと止める。

 そういえばまだあれが残っているままだった。警官はもう帰っていくみたいだが、もし何かのはずみであれが見つかりでもしたら、大変な事になる。

 それに、一番恐るべきはあの子供だ。おそらくあれが殺人だと気づいているのもあの子供だけだろう。

 早く処理しておかねば。特にあの子供が発見でもしたら、今まで以上に私に突っかかってくるだろう。あの写真を見せられて質問された時はヒヤッとしたが、まあ、子供の知能なんてあの程度だ。あんな簡単な罠にひっかかるわけはない。こちらは少なくともあの子供の数倍は長く生きているし、なんせ教員である。

 殺人だと見抜いたといっても、所詮は子供。まあ、あれに気づかれたとしてもなんとか強引にやる過ごせるだろう。しかし、見つかるか見つからないか選ぶとしたら、もちろん無難な見つからない方を選択するに決まっている。

 部屋が近づいてきた。他の先生もほとんど帰ってしまったし、時間的には今が丁度いい。

 職員室

 扉の上にかかった札を確認して、取っ手に手をかける。この部屋に入って、あれを消してしまえば、もう私が犯人だという証拠はなくなる。そうして、帰ろう。我が家へ。

 高まる緊張を抑えるようにして、吉田は扉を開けた。そして、目を丸くした。

「き、君は……」

私の目に映ったのは、窓辺の席に座る紺色の着物と、その隣に立つ緑色のワンピース。

 紺色の着物はこちらにすっと視線をむけて、にやり、と微笑んだ。

「吉田先生。あなたを逮捕します」









十へ続く