八

 

 一つだけわからないことがある。

 ぼくは腕を組んで、片方の腕でキセルをいじくった。

 犯人は吉田菊雄で間違いはない。しかし、彼が何故わざわざ中川にカッパを着せたかが、まだ予測の域を超えていないのだ。

 それがわからなかったところで、彼を追い詰め、自白させる事はできる。しかし、気になることは気になるもので、こうやってずっと頭の中にひっかかっているのだ。

 玄関から校舎内に足を踏み入れる。無人の静けさだ。

 腕を組んで、俯きながら歩く。

 なぜ、吉田はわざわざ手間のかかる事をしたのか。なぜ。

 苛立ちを覚えながらかつかつと歩いていく。その時、ぼくの目に赤い色が映った。

 糸だ。赤い色をした糸である。あの時神無月くんが落としたものだろう。なにげなく、それを取ろうとしゃがみこんで手を伸ばす。

 しかし、なかなか取れない。原因は、その糸が木造廊下の板と板の間の僅かな隙間に入り込んでしまっているからであった。溝は数ミリだが、何しろ幅が狭いので爪がそこまで届かない。

 その糸を取ろうと数度指を動かした時、

「なるほど」

立ち上がるぼく。

 なるほど。そういうことか。

 やっと気がついた。なんだ、気づいてみればたいしたことはない。簡単なことだった。

「円次朗!」

ぼくを呼ぶ声。いいタイミングだ。

 後ろを振り向くと、駆け寄ってくる神無月くんの姿が見えた。よほど急いで行ったのか、自転車を使ったはずなのに息が上がっている。

「ご苦労」

「これでいいのね」

神無月くんが渡したそれを眺め、ぼくはほくそ笑んだ。

「上出来だ」

「ねえ、教えてよ」

「何を?」

「決まってるじゃない。何に使うのよ、そんなもの」

「ちょっとな。犯人を自白させる罠にするんだ」

「自白させる、罠?」

その時の神無月くんの顔といったらない。

 しかしすぐ、怒ったような表情になる。彼女はころころと表情が変わるので、見ていて飽きる事がない。

「まったく、それならそうと言ってよね。なんたって意気込みが違うわよ」











九へ続く